部屋にただ1人呆然と突っ立っているのは、どれほど間抜けな光景なのだろうか。
少しの沈黙が流れ、小さな溜め息がそれを破った。

「……良かったぁ。拒否されたのかと思った」

「え? そんな事、」

「身体はもう大丈夫?」

「あ、うん。多分」

「本当に? でも、ちょっと声、おかしくね?」

そう聞かれてから、初めて自分の返事の適当さに気づく。
「多分」じゃなくて、実際に今日は熱で学校を休んでたのだった。どうせ、文化祭の後片付けをさせられるだけだろうから、特に支障はないのだけれど。

「じゃあ、風邪かも」

「じゃあって何だよ」

電波の弾ける音がする。どうやら呆れ笑いを漏らしたようだ。もう、怒りは治まったのだろうか。

少しの沈黙。
それから、洋君は落ち着いた口調で口を開いた。

「……ごめん、怒鳴って」

「いや、ううん。別に、」

「着歴が残ってたから、もしかしたら、って思ってたんだ。履歴を見て、何回もかけ直したんだけど、全然出なかったから、正直、すっぽかされたのかと思った」

「……」

「何かあって無理だったのかな、なんて、ちょっと期待とかして、俺、馬鹿だなぁって思ったり……でも、期待して良かった」

困ったような安心したような、そんな風にはにかむ洋君の顔が目に浮かぶ。
優しい声と、言葉。

「心配させて、ごめん」

心からの言葉だった。見せかけなんかじゃなくて、本心から自然と沸き上がってきたんだ。

そんな事はお構いなしに、洋君は「本当だよ」と小さく笑った。