スピカ

 呼吸が沈んでいく。深く、埋もれてしまいそうなほどに。空気となり、熱となり、君の心臓まで伝わればいい。

今まで流せなかった涙は、現在とめどなく流れていくけれど、拭ってくれる手があるだけで、あたしは幸せなのかもしれない。それが楸さんだとしても。


良平は、本当にあたしを必要としてくれていたのかな。
悲しいくらいに、分からなくなってしまった。
あたしを口説き落とすまでの、ただの遊びだった? それとも、あの時は本気で好きだった?

……分からない。もしかしたら、良平自身にも分からないのかもしれない。
だけど、今はもう、あの目が見つめるのはあたしじゃない。


これ以上見たくない。尖った現実なんて。

最後の文化祭に、こんな思いをするくらいなら、来なければ良かった。
避けて、逃げて、目を塞いでいたかった。

「もう、やだ……」

嫌いだ。大嫌い。
良平も新しい彼女も。
大嫌い。大嫌いなの。
皆、皆、あたしも。皆。

「見たくない。ここに、居たくないっ」

もう、掠れた声しか出ない。
しがみついた握力が弱まっていく。

「居たく、ないの……」

逃げ出したい。こんな所から。
あたしを苦しめるもの全てから。
醜い、あたしから。

秋空の下、風が冷たかった。
それから守るように、腕が包み込んでくれる。その匂いで。胸で。震える声で。

「……家に帰ろう」