スピカ

 鈍い金属音が響く。
分厚い鉄扉は閉まったはずなのに、その音よりもまだ、良平の声が耳に残っている。

“そういえば、雅もこの学校だったんだよな。すっかり忘れてたわ”

良平にとって、あたしは“そういえば”で済まされる存在だったのか。
忘れるくらい、どうでもいい過去になっていたのか。
傷付いてなんかいなかったはずなのに、さすがに笑えない。


「雅ちゃん……」

情けなんて要らない。掛けられたくない。
憐れまないで。あたしを。

「楸さん、ごめん。出ていって」

笑顔も作れない、引き攣っただけの顔なんて見られたくない。思っていたよりもショックが強くて、語尾が震えてしまう。

「……独りにして」

さすがのあたしも、涙腺が限界だ。
せめて楸さんが出ていくまでは、楸さんがあたしの視界から見えなくなるまでは、泣けない。泣いちゃいけない。

「やだ」

きっぱりと楸さんはそう言う。

どうして、こうも空気が読めないんだ、この男は。笑えないんだよ。

ぎゅう、と握り締めた手に爪が食い込んで痛い。

「なんで……も、出て、けよっ」

どうして、こうもあたしをイライラさせるんだ。辛うじて声を絞り出すだけで、精一杯なのに。
目が熱くなってきているのに、視界から消えようとしない。
黒い眼が真っ直ぐに、醜いあたしを見据えている。

「だって、泣きそうだから」

「な、……んで……」


我慢の、限界だった。

自分でも信じられないほど、涙が溢れてくる。溜まり場をなくし、大粒にも満たない粒の涙が頬を伝っていく。とめどないほどに。

誰にも見られたくなかった。
こんなみっともない姿。
楸さんにも、見られたくなかった。

ぐらぐらと揺れる視界。楸さんの顔は見えないけれど、これ以上、この歪んだ水世界を見ていられなかった。

「……っ、見んなっ」

しゃがみ込み、あたしは世界を閉ざした。