ゆっくりと電車が動き出した。

ホームが遠ざかっていくのを切ない気持ちで眺めていると、思わずため息が漏れた。


肩にかけたずっしりと重い鞄が引っ張られ、顔だけ後ろを向くと、さっきまで隣に立っていた彼が、いつの間にか長椅子に座っていた。


彼は自分の隣の席をポンポンと叩いた。


「まぁ、しょうがないじゃん?とりあえず座ったら?」

「……ありがと。でも次で降りるから。すぐ着くし大丈…」


またしても話し終わらないうちに、強い力で二の腕を引っ張られた。

私はバランスを崩して、後ろに倒れこむ形で長椅子に座った。


びっくりして言葉が出てこない私に、彼は、その存在すら忘れていた文庫本を渡してくれた。