きみ、ふわり。



「ごめん、やっぱ無理だわ」

 顔を埋めたまま、モソモソと謝った。


「私、そんなに魅力ないですか?」

 か細くて弱々しい声が俺の左の鼓膜をそっと震わせた。

 顔を持ち上げて紗恵を見下ろせば、また泣きそうな顔をして唇を噛みしめている。


「噛むなって言ったろ?」

 できるだけ穏やかに注意してやると、「あっ」と溜息のように零して紗恵は口元を緩めた。
 すかさずそれを俺の唇で塞いだ。


 不完全燃焼で悶々とした何かが込み上げてきて、それは俺の舌に集中する。
 紗恵の口の中を弄るように撫でまわせば、心なしかそれが鎮まったような気がした。


 散々味わい尽くした後、ようやく離れて隙間を作り、紗恵をジッと見詰めた。

 切なげな瞳が痛かったけど、今視線を外したら駄目だと思った。