きみ、ふわり。



 紗恵を校舎側壁際に、その目の前に向かい合うようにして俺も立つ。

 おどおどして不安色の瞳で俺を見上げる紗恵は、やっぱり小動物のようだと思った。


 はぁーと、大袈裟なほどの溜息が思わず口から漏れた。
 そんな俺を見た紗恵は、しょんぼり俯いてしまった。



「紗恵……何やってんの?」

 身を屈めて紗恵の顔を覗きこめば、紗恵は俯いたまま、チラと一瞬だけ視線をこちらに向けた。
 けれどすぐ、引力か何かで吸い寄せられるように、それはまた足元に落ちた。 


「怒らないから答えて。
 栗重にだいたいのことは聞いてるけど、ちゃんと紗恵の口から、紗恵の本音を俺は聞きたい」

 できるだけ穏やかな口調を心掛けて問う。

 『怒らないから』ってのも可笑しな話だ。
 怒る権利など俺にはないのにと、自分で言っておきながら苦い笑いが込み上げる。