きみ、ふわり。



「じゃ、遠慮なく」

 言って、紗恵の手を引いて歩き出した。

 顔をまともに見られないから、今どんな表情をしているかはわからないけど、紗恵は一言も文句を言わず、チョコチョコと小走りをしてついて来た。


 そういうところが可愛くて仕方がない。
 だから、誰にも渡したくないなどと思ってしまう。

 理不尽で矛盾した欲望だ。



 数メートル先の校舎横へと紗恵を連れて行った。
 隣はプールの更衣室と水泳部部室、その上にプールがある。

 広めのスペースではあるが、壁に挟まれたそこは、どこか密室に似た圧迫感があった。
 校舎側には非常階段があり、分厚いコンクリートに囲われたそれは、一歩足を踏み入れれば、身を潜めることができる。


 これで誰の視線も届かない。
 完全に二人きりだ。