わざわざ名前で呼んだのは、『お前を俺は知っているぞ』アピールをするため。
それでビビらせてやろうと思った。
高見沢がピタと足を止め、必然的に紗恵も立ち止まる。
そうして二人してゆっくりと振り返った。
安っぽい愛想笑いを顔面に張り付けた高見沢は、
「何すか? 鏑木先輩?」
と返してきた。
何故、俺の名を?
怯んだのは俺の方だった。
「そっちの彼女に急ぎの用があってさ。
悪いんだけど、ちょっとだけ貸してくれない?
すぐ返すから、ね?」
気を取り直して言ってみるも、『すぐ返す』なんて言っちゃってる時点で、もう既に俺の方が劣勢だ。



