きみ、ふわり。



 その手をどけろ、糞野郎。


 と、理由も権利も何もなく思った。
 どうかしてるわ、俺。



 俺と目が合うと紗恵は、たちまち泣きそうな顔をして俯いた。

 またそんなに唇を噛みしめて。
 そのプルンとして艶やかな薄桃色が傷付いたらどうしてくれるんだ。
 と、また何の権利もないのに思うんだな、これ。



 紗恵は俯いたまま、その男とまるで一心同体かのように、足並み揃えて俺の横を通り過ぎて行った。

 俺はそれを振り返りながら目で追う。
 ワックスでツンツンに立てた、男の金に近い茶髪が妙に刺々しく映った。


 ここまで強引に俺を引っ張ってきた栗重も、ただ呆然と眺めていただけ。

 俺たち……
 一体何しに来たの?