きみ、ふわり。



 あの頃の俺は――
 我儘で身勝手で浅はかで、

 どうしようもなく幼稚なお子ちゃまだった。



「ううん。ちっとも変ってない。
 いい意味でね」

「お前も。
 全然変わってない、いい意味で」

 負けじと俺も言い返す。


 本当に変わらない。

 10年以上の空白があるというのに、俺と栗重の間に窮屈なぎこちなさは微塵もなかった。


 あの時の激情が薄っすら蘇り、胸がチクリと痛む。
 けれどそれも、遠い過去の記憶でしかなくて。

 血気盛んで多感だった日々は、今となっては穏やかで切ない思い出だ。


「とよちゃん、足、とまっちゃってるよ」

 自分が立ち止まったくせに、“とよちゃん”に歩を進めるよう促す俺って狡い。