「なぁ、栗重、抱かせて?
俺が、紗恵のこと忘れさせてやる。
ほんとは苦しんだろ?」
そう栗重の耳元で囁いたのは、本当に俺だったのだろうか。
思ってもいない言葉が出て来る、俺の意志など無視して口が勝手に動く。
「忘れたいのは瀬那くんの方でしょ?」
呻くように言って、栗重は俺の胸を思い切り両手で押して引き離した。
「俺はただ、お前が可哀想で……」
「私より、瀬那くんの方が可哀想。
私の好きな人は生きてる。
片思いだけど、でも動いたりしゃべったりしてるとこ、傍で見てることができる。
バカばっかやってるけど、そういうの見て呆れたり、溜息吐いたりできる。
でも瀬那くんは、それが出来ない、だから私よりずっと可哀想」
「お前、何の話してんの?
好きな人って誰よ?
てか、お前の切ない恋バナとか、俺どうでもいんだけど」



