「いい、辛くないから。
紗恵ちゃんと過ごした時間はとても楽しかった。
それは今でも私の宝物だから。
辛くなんかない、大丈夫」
俺は、身体ごと栗重に向き直った。
大きく開いた足の間の部分を掴んで引き、椅子ごと移動して栗重との距離を詰めた。
「無理すんなって。
こんなに号泣しといて辛くねぇとか、強がんなよ」
言いながら、栗重の頬を片手でそっと包んだら手の平がネットリと湿った。
両足で栗重の足を挟んで固定する。
空いている方の腕を栗重の首に巻き付けて引き寄せた。
濡れてしまった自分の手を栗重の頬から離して、なんとなく舐めてみたらしょっぱくて、鼻の奥がツンと痛んだ。
栗重が俺の奇行に目を見張る。
そんな風に見られるのは苦痛でしかなくて、栗重の顔を強引に俺の胸に押し付け、ギュッと両腕の中に閉じ込めた。



