きみ、ふわり。



「俺も」

 独り言が口から漏れる。
 声に出して言わないと届かない気がして。

 この世界にはもう居ない紗恵に言葉を届けようとか、そんなこと出来るはずがないのに、音にしたら何とかなるんじゃないかって、そんな現実離れしたことをこの時の俺は本気で考えた。


「俺もお前が大好きだって。
 だから、戻って来てよ。
 戻れないなら、それが無理なら、俺がそっちに行こうか?」


「それは駄目。
 駄目だよ、瀬那くん」

 とうとう栗重が嗚咽を漏らして、それでも泣けない俺は、本当に紗恵のことが好きだったんだろうかと、それすら疑問に思い始める。



 あの紗恵と過ごした一ヶ月は一体何だったのだろう。

 俺は紗恵にとって、短い人生の一部になった。
 じゃあ、俺にとっての紗恵は?