きみ、ふわり。



 俺が呆然と見上げていると、栗重はハッと我に返ったように俺の胸元から手を離し、ゆるゆると再び椅子に力なく腰を落とした。


 仕方なく……
 本当に、もうどこにも逃げ場がない気がして。
 それぐらい俺は追い詰められていたと思う。

 渋々、手にしたままの薄緑のノートを捲った。




『11月5日 10:45
 今、先輩は生物の授業中。
 先輩は「俺、生物苦手。女の身体だったら詳しいけど」とか言ってた。
 はい、はい。』

『11月8日 14:05
 今、先輩は英語の授業中。
 「俺、日本語しか使わねぇし、今後も日本語オンリーで自己表現はしていく」
 先輩の自己表現、全然足りてないって(笑)
 私のこと、どう思ってましたか?』