きみ、ふわり。



 栗重は頑として受け取らず、目を伏せて首を小さく左右に振った。
 そうして再び視線を上げて俺を真っ直ぐ見詰めた。


「瀬那くん……お願い」

「栗重、お前鬼だな。
 何で? 何でこんな余計なこと……
 俺が知らなくても別になんら差し支えないはずだろ?
 俺は知りたくなかった、俺をふった紗恵は遠くで元気にやってるってそう思っていたかった。
 他に好きなヤツができて、俺のことなんかすっかり忘れて、今はそいつに抱かれているかも、とかそんなこと考えて嫉妬したり傷付いたりしていたかった」

 八つ当たりだ、わかっている。

 それでも――
 栗重が黙っていてくれたら知らずに済んだのに。
 こんな想いしなくて済んだのに、と。

 怒りばかりが込み上げて来て、どうにも止められなかった。



「知らないままでいる方が、
 可哀想だと思った」

 栗重はそう言って、手の甲で濡れた頬を乱暴に拭った。