きみ、ふわり。



「うっす」

 変な挨拶を口にし、綺麗に並べてある逆さのグラスのうちの一つを手に取った。


 栗重の身体がピクッと小さく跳ねたので、思わず鼻を鳴らして笑ってしまった。

 ゆるゆると隣の俺を見上げた栗重は、何故だか不安げな、困ったような表情を浮かべ、

「瀬那くん」

 ポツリ、呟くように零した。



 ガムシロップやミルクやらが置いてある場所を挟んで隣の機械で、アイスコーヒーを注いでいると、

「氷、入れないの?」

 栗重が不思議そうに問う。

「いらね。
 邪魔くさいしシャバくなるから嫌」

「ストローは?」

「いらね、邪魔くさい」

 言うと、栗重は一旦手にしたストローを元有った場所に戻した。
 見れば、栗重の持っているオレンジジュースが入ったグラスには既にストローが差さっていた。

 俺のを取ってくれたのか、とようやく気付いた。