きみ、ふわり。



 また柑橘系の爽やかな香りが俺の鼻孔から浸透してくる。
 本当に良い匂いだ、なんだか思考がぼんやりする。



「先輩。
 したいです」

 顔を埋めたまま紗恵がボソリと呟く。
 もの凄く小さな声。

 あやうく俺の鼓膜はその音を拾いそびれるところだった。


「何を?」

 意地悪でもなんでもなく、本当にわからなかった、だから聞き返した。

「エッチ」

 絞り出すように紗恵が答える。

 相変わらず俺の肩に顔を伏せていて表情は見えないけれど、酷な事を紗恵の口から言わせたのだと嫌でも悟って、俺の気持ちは激しく凹む。


「ん。俺も」

 言って、紗恵をギュウと思い切り抱きしめた。

 本当はそんなつもりさらさら無かったけど、せめて同意だけでも、と思った。