俺の左耳の上辺りに何かが触れる感触があり、視界の端に小さな黄色が映り込む。
見ていることに飽きたのか、紗恵が俺の頭にそのエセたんぽぽを飾ったらしい。
再び重い頭を持ち上げて紗恵を見れば、「うん、似合う」と満足そうに頷いた。
至って楽しそうではあるけど、紗恵は暇を持て余しているのだと思った。
そろそろ体勢を変えようと、紗恵の身体を両手で大切に抱えながら上体をゆっくり起こせば、俺の耳の上に差し込まれたそれは、ポロリと元居た芝の上に落ちた。
あっ――
短く声を漏らし、紗恵は地に帰ったそれを残念そうに見下ろす。
そんな彼女を腰の後ろで両手を組んで支え、食い入るようにじぃっと見ていると、紗恵もゆるゆると視線を顔ごと移動させ、そうして俺を見上げた。
紗恵に見詰められると、他の誰も踏み入れることができない四次元的な空間に、二人きりで居るような錯覚を覚えるのは何故だろう。



