内心は紗恵の体重にかなりの圧迫を感じていたけど、何も言わずに笑みを返した。
紗恵と俺の身体が重なっている、それがただ嬉しい、苦情など口にできるはずがなかった。
ふと、紗恵は俺の顔の横へと視線を滑らせ、細い左腕をそこへ伸ばす。
「可愛い」
うっとりと俺の顔のすぐ横にある何かを眺めながら言い、また子どもみたいに嬉しそうに瞳を輝かせた。
直後、俺の右耳がプチッという小さな音を拾った。
手に取ったそれを俺の目の前にかざして、紗恵はちょっと得意げに微笑んだ。
小さな黄色い花。
たんぽぽに似ているけど、すこし違う気がする。
確かに色も形もどこか控え目で可愛らしい。
紗恵みたいだ、と思った。
けれど――
それが何か?



