きみ、ふわり。



「きゃあー、先輩、これめちゃくちゃ……」

 芝の生い茂る急斜面を滑り下りながら紗恵が大声を張り上げた。
 紗恵が叫ぶの、初めて聞いた気がする。


 グングン加速する紗恵は、進行方向を向かって左に大きく逸れた。
 そしてバランスを崩して、グラリと身体が右に傾く。

 下でしゃがんで見上げていた俺は、大慌ててで出来るだけ遠くへ左膝をつき紗恵を受け止めた。

 が、想像以上にその勢いは強烈で。
 胸に飛び込んで来た紗恵をしかと抱きとめたつもりが、その衝撃に負け後方に転倒してしまった。


 仰向けに寝転がった状態の俺の上に、紗恵が覆いかぶさるように乗っかって。
 ほんの少し頭を浮かして胸の上の紗恵の顔を覗きこめば、悪戯を見つかった子どものようにバツが悪そうな苦笑を浮かべていた。