「わかってます。
冗談でこんなこと言いません。
言っていいはずがないです」
「じゃあ、冗談じゃなくて……
本当のこと――なのか」
確認というよりは、漏れ出た独り言。
信じられない、信じたくない、夢だったらいいのに、夢ならどうか早く醒めて。
「ゴールデンウィークに引っ越します。
先輩、今までありがとうございました」
この状況で別れの言葉?
肌はこれ以上無理ってぐらい密着しているのに。
俺と紗恵を隔てる物なんて何もないのに。
紗恵と俺の体温は溶け合って、どちらのものかわからないぐらいなのに。
「俺と別れるってこと?」
そこまで言って、自分の口から出た言葉の矛盾に気付く。
俺たちは付き合っている訳ではない、だから『別れる』も『終わる』もない。
始まってもいなかったのだから。



