きみ、ふわり。



「なぁ紗恵、お前……
 突然消えたりしねぇよな?」

 紗恵の黒髪を弄びながら、小さな呟き声で尋ねた。
 非現実的な妄想だけど、確かめずにはいられなかった。


 ゆっくりと顔を上げた紗恵は、酷く切なげで、その瞳は何か物言いたげで。
 ぼんやりした不安が急に現実味を帯びてきて、胸がギュウと締め付けられた。



「あの、ずっと言おうと思ってたんですけど」

 ようやく口を開いた紗恵がそんなことを言うので、頭の隅に意識的に追いやっていた違和感がムックリと顔を出し、みるみる俺の中に広がった。


 やっぱり紗恵は、隠し事をしていた。
 それが何かはわからないけど、俺にとって嬉しいことでないのは明らかだった。


 とにかく今は、冷静に紗恵の話を聞こうと決意を固め「うん」と相槌を返して先を促した。