きみ、ふわり。



 教室を覗くと、紗恵以外は誰もおらず、窓際に立つ彼女の華奢な背中が酷く寂しげに見えた。


 後姿の優しく滑らかな輪郭にドキリとする。

 窓の外は薄暗い灰色が広がり、霧のような小雨が鬱陶しく見えるけど、全ては紗恵を引き立てる為にそこに在るように思えた。



 気付かれないように足音を忍ばせてそっと近づき、背後から両腕を紗恵の下腹部に巻き付けて抱き寄せた。

 振り向く前に、素早く頬に唇で触れる。

 くすぐったそうに左肩を竦めた紗恵に、「何してんの?」と問えば、ゆったりと顔だけ振り返って俺を見上げた。
 答えようと僅かに開かれた口を、俺のそれで塞いだ。


 何をしていたかなんて、正直どうでも良かった。

 紗恵に触れたい気持ちばかりが、俺の全てを支配して。
 触れられる場所全てに触れたい、キスをしたい。