「さんきゅ、恩にきる」 そう言って古語辞典を持ち彼女のもとに行く彼の背中を見つめていたら、 「お人好し」 絵里の声が聞こえた。 「そんなんじゃ、ないよ」 「イヤだって断ればいいのに」 そう簡単に絵里は言うけれど、困ってるって聞いたら断れない。それがどんな相手でも、私は、手を差し伸べてしまうんだ。 「出来ないでしょ」 「まぁね。でも、あんまり好い人になってたら、引きずり落とされることもあるんだから注意しなよね」 絵里のその言葉を痛感するのは、もっと後のこと。