「あずさ?」

黙って俯いている私の顔を覗き込むようにしてかがませる彼の優しく呼ぶ声に、顔を上げると、彼は、少しだけ、ほんの少しだけ寂しそうな顔をしていた。

それが、なんでなのか私には分からない。


私は、こうやって困らせてしまうことしかできない。迷惑かけることしかできない。


加藤の傍に居ては、いけないんだ。

“あずさ”って呼ばれることも駄目なんだよ。 
だって、加藤の好きな人は、小泉カオルさんなんだから。



だから……


「あのさ、加藤」

「ん?」





「“あずさ”って呼ばないで」