周りはそんな話ばかりして認めてもらえなかった。
(残された家族といえる人は弟の樹希だけなのに・・・だからこそ俺は樹希とだけは離れちゃいけないんだ。ただそれだけの願いなのに・・・俺の気持ちはどこにいったんだよ)
周りは何も考えてない俺の気持ちなんか無視だ。
何がより良い方なんだ。樹希や俺の最善とか言って―――。
一瞬にもそんなの偽善だと思ってしまった。
暗闇に突き落とされたように俺の心は真っ暗になった。
泣きたくなった。樹希はまだ小さくて、この状況すら分かっていなかっただろう。
それでもここで泣くわけにはいかなかった。
樹希がいる前ではどんなことでも毅然として振舞わなければ、笑わなきゃいけない。
樹希が悲しい思いをしないように。
その時はそんなことばかり考えいた。
そして、そんなあるあの晩の日、陟さんと出会った。
今でもあの時の陟さんの言葉を覚えてる。
『お前は1人じゃないんだ。それに弟だっているだろ?泣きたければ泣きゃいいんだよ。下手に我慢するな、まだガキなんだから。ただし俺の胸は貸せねーけどな』
女性専用だからな、と微笑んで陟さんは俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
タバコのにおいと甘く爽やかな香水のにおいが俺の鼻をくすぐった。
この時は優しい人なんだと思ったけどこの後、陟さんの鬼畜暴君ぶりに俺はすぐに前言撤回した。
だけどそれでも俺は生きている。樹希と一緒に。


