あの子―――星名爽歌が陽の目の前に現われた瞬間、あたしの中は何かが罅割れた。
星名爽歌――あたしとは正反対な子。
素直で大人しくて、何だか可愛いコだなって思った。
きっと、この子も陽に恋をする。
そう予感してしまったのと同時に陽もきっとこの子を好きになるのかもしれないと感じた。
そう思えたら、なんだか空しくて、胸が締め付けられた。
あたしの思いは伝えちゃいけないような気がする。
あたし以外いない教室で、あたしは陽の机を見て、つぶやく。
「陽は鈍いんだから…ほんと…馬鹿よね…」
自分も馬鹿なんだと思えてならなかった。
机をすっとなぞった。
いつになったらこの気持ちが伝わるのだろうか。
多分、女友達でいる限り伝わらないのだろうけど――。
そっと、あたしは眼を瞑る。
ガラガラと教室のドアが開き、
「あ、いました。いましたー。知砂さん」
人が干渉に浸っている時に、この間の伸びた物言いは……!!
誰と言わなくてもわかる。
水野了だ。
怒りたい気持ちを抑え、拳を振りかざすのも抑え、あたしはそっけなく言い放つ。
「何よ?」
「まだ、居たんですねー。宜しければ俺と一緒に帰りませんか?」
穏やかな笑顔で帰りを誘ってくる了。
了に何を言っても無駄だと半ば諦めるあたしは軽くため息をつき、渋々了承する。
「…いいわよ。その代わり、了、あんたが荷物持ちよ」
「えー」
業とらしく了は不満をつく。
「何よ。女子に重たい荷物を持たせる気!?」
「ま、仕方がないですねー」
「それよりも真郷たちは?」
周りを見回すあたしに
「ああ~、尚弥君たちなら先に帰りましたよー」
「そう…。それならあたしたちも帰ろうか」
「はい」
了に荷物を持たせ、あたしたちは誰もいない教室を出た。


