『捜査が難航しててな、ドンづまりだぜ。でも日曜の水族館には間に合わせるようにするからな♪』
周のご機嫌な声を聞いて、俺も苦笑を返した。
きっと捜査の場では俺が想像もできない真面目で真剣な様子なんだろうな。
その様子を間近で眺められる陣内が羨ましかったが、普段の周を見られるのは俺だけだ。
「早く帰ってこいよ」
なんて珍しく本音を漏らすと、
『愛してるぜ~ハニー♪』なんて受話口からハートがたくさん飛び出してきた。
相変わらずだな…
若干引き腰になりつつも、俺は笑顔を浮かべた。
俺の手元には“円周率の求め方”の本がある。その感触に、何だかいつもより素直になれる気がしたんだ。
「周―――…好……」き、と言おうとしたとき、
『橘警視ーーー!!』と周の背後で大きな声が聞こえた。
陣内の―――声だった。
『悪いヒロ。また掛け直す』
俺の告白は周に届くことなく、空中で消えた。
「あ……うん…」
曖昧に頷くと、通話はブツリと切られた。
ツーツー…と虚しい電子音を聞いて、何だか心の中が急激に冷えていく感じがした。
陣内は―――周のすぐ近くに居る。
すぐ近くに居て、あいつを助けることができる。
その事実が無性に苛立たしいのと、妙な焦燥感と……
でも心の中を占める大部分は“羨ましい”という感情だった。



