―――その日、仕事が終わるまで周から何の連絡もなかった。
きっと忙しいんだろうな、と思いつつも、今日も帰ってこないのかぁ…なんて寂しく思う。
そんな寂しさを紛らわすために本屋に立ち寄って、思わず『円周率の求め方』なんて本を買ってしまった。
普通なら絶対手に取らない本なのに、ほとんど迷わずご購入$★
帰りの電車の中で本をめくり、ちらりと見てみる。
なになに?
「円を形づくる曲線のことを円周と言う。どんな大きさの円でも、円周÷直径は同じ数になる。この数を円周率と言い、円周率は、3.141592……と続いていく」
と、ここまではいい。
ハットンの公式、オイラーの公式、ベガ、ダーゼ、ガウスの公式…
はじめて目にするわけも分からん数字と記号にくらりと眩暈を起こしそうになった。
お、奥が深いぜ…
あいつ(周)の中身ってこんなに複雑なのか??
なんて思っていると、
「その値は旧約聖書で神により3と定められたけど、エデンの園を追放されたことを逆恨みして、神に対する反抗心を持った人間は、その不器用な五本指で円周を測って「3 + 1/8」などといった適当な値を導き出して「これこそが円周率である」と主張したのよ
だけど人間の測った円周率は測定し直すたびに異なった値になってしまうという問題が発生したの。人間はこの問題の解決を早々にあきらめて「円周率は終わりなく続く取り留めのない数字だ」と宣言して「π = 3」という真実から目を背けてしまった。
なんてロマンチックなお話なんでしょう♪」
うっとりした声をすぐ近くで聞いて、俺は目を開いた。
いや…ロマンチックでも何でもないし。そもそも何であなたがここに…?
すぐ隣では重ね合わせた両手を頬に当ててうっとりと頬を緩ませる刹那さん…
な、何故居るーーーー!!!
思わず叫びそうになった。



