低く聞かれて、俺は目を開いた。
「答えろよ。お前だって俺が来なかったら強引にあいつに迫ってただろ?」
無表情に言われて、俺が力なく手を下ろす。
「あいつも男だが、場所と状況によっては簡単にひれ伏される。お前がその隙を狙ってあいつにしようとしたことは、俺と大差ない」
「でも…俺はその先のことを…考えていなかった…」
ましてや無理やり組み敷いて犯すようなこと、一ミリも考えてない。
何とか答えて…それでも桐ヶ谷は果たしてどうなんだろう…と考えてみる。
そう言えば…バーで飲んでたとき、俺たちはそんなような内容の話をしていた。
「欲望なんて誰にでもある。
特に目の前にその対象となる人間が居れば、手を出したいと思わないヤツなんていない。
それが―――男ってもんだ」
低く言われて、俺は目をまばたいた。
「ただ―――それをしないってのが自制であり、それができなきゃ犯罪に発展するがな。
俺はあいつに訴えられても、それはそれで仕方ないと思ってたよ。
自分でも自分が信じられなかった。あいつを目の前にすると―――理性とか道徳とか――――…正義までもが……俺の中で吹っ飛び、
狂う」
刑事が険しかった視線を緩めて、僅かに目を伏せると再び額を覆った。
嫉妬?独占欲?
そんな簡単なもので片付けられないな。
刑事が桐ヶ谷に向けるものは―――狂気にも似た愛情。
誰にも渡さない。誰にも触れさせない。俺だけの―――
でも……それは、俺の目にきれいなものに映った。
まるでたった一つの宝物を守るように、こいつが桐ヶ谷を愛しみ、大事に思ってるから。
桐ヶ谷は―――…それが分かってるから、この刑事と一緒に居ることを選んだ。
桐ヶ谷が訴えたり、この刑事から離れていかなかったのは―――
二人に深い愛情があり、絆があるからだ。
二人の指の同じ場所に―――同じリングが光っていることが何よりも証拠だ。



