コンッ…
水槽を挟んだ向かい側で、周が水槽のガラスを軽くノックした。
その音に顔を上げると、ゆらりと揺れる水の向こう側に周の姿を見た。
水槽にはポンプが設置されてるようで、底に白い砂が敷いてありその粒子の間から細かい泡が浮き上がっている。
水の粒がコポコポ音を立てて上に昇っていく様は、きれいだった。
周が唇の端をわずかにあげて色っぽく笑う。
暗い室内に、水槽の中の淡いブルーの水と泡が反射して、周の顔が幻想的に浮かび上がっている。
その姿は幻想的で、きれいだった。
のに
周はいつの間にか取り出した人魚ヒロジをふらふら振って、まるで水槽の中で泳いでいるように俺に見せた。
何やってんだよ、あいつ…
ちょっと笑えてきて、ぎこちなく笑みを返すと周は人魚ヒロジにちゅぅとチューをした。
周―――……
俺はちょっと笑い返した。
それを見た周が穏やかに微笑み、ガラスに手を置くと、その縁をなぞるように滑らし一歩前に進み出た。
一つの点からはじまった線。同じだけの距離で離してつなげていくと、円が出来上がる。
この線は―――……
周と俺―――――
俺もガラスに手を置いて、周と同じ方向に一歩歩み寄った。



