「でもそんなの間違ってる」
俺は刹那さんの横顔をまっすぐに見据えて口を開いた。
刹那さんはその言葉に何も返さずに、顔だけをこちらに向けてくる。
その顔には何の表情も―――浮かんでなかった。
「俺のアリバイ作りのため、仲間に頼ってまで奮闘してくれたのは嬉しいです。ありがたいとも思います。
でもそのために、未然に防げる筈の犯罪が一件増えたんだ。被害者が一人増えたんだ。
あなたは周に似てるって言ったけど、
今思うと全然似てない。
だって周は―――そんな方法を取らない」
俺の言葉を、頷くこともせず刹那さんは無表情に聞いていた。
刹那さんを傷つけたと思った。
だけど、言わずにはいられなかった。
このままだったら、あの事件を考えれば考えるほど―――俺の中に不快な後悔を深めるだけだと思ったから。
しばらくの間刹那さんは黙って俺の目をじっと見据えていた。俺もその視線をそらさずにまっすぐに返していると、ふいに刹那さんが悲しそうにちょっと笑った。
「優しいのね」
たった一言呟いて、俺の頬に手を当てる。
そのてのひらはさっきの冷たい温度ではなかった。
「ごめんなさいね。あたしにはあんな方法しか思いつかなかったから」
素直に言って俺の頬を撫で上げる。
№5の香りが―――爽やかに香ってきて、でもその香りはどこか頼りなげに風に吹かれていった。



