また一歩、後ろへと下がる。


「どうしたんですか?凱那さん。」



さっきから妙な違和感と不安感が拭えなくて、少しずつ希彩と距離をとる。

だけど、希彩は困ったように笑うだけで、特に何もしてこない。



・・・・・・・考えすぎ・・・・?

でも・・・・・


「どうしたんですか、凱那さん。早く、車に戻りましょう。」



何かが、引っ掛かる。


この人は、希彩じゃなくて・・・・・・



そこで、一人だけ思い当たる人がいた。



「――――・・・・・・あ・・・・・!!」




思い出した、この人・・・・!



「・・・・・戸羽後高校の人が、私に何の用ですか。」



昨日の団体戦で見た、希彩によく似た人・・・・・!!!!

一か八かで聞いてみると、案の定

青いフレームの中の瞳が、僅かに見開かれる。



そして



「―――へえ・・・・・。」



す、と細められた。

口元がゆるりと弧を描き、くっと喉から押さえた笑い声が聞こえてくる。


「・・・・・・・知ってたんだ?」


そう言って上目使いに私を見ると、彼は若干俯いて



カチャ



「――――初めまして、かな。」



眼鏡を外し、青いフレームを唇に軽く当てると見下ろすように目を細めて微笑んだ。




「・・・・・貴方、・・・・誰?」



「―――――・・・・・俺は、夢咲(むらさき)。

蓼科 夢咲。」



「蓼科・・・・・・・!?」



その言葉に、眉をしかめると、夢咲と名乗った男はまた柔らかく微笑んで





「・・・・そ。蓼科 希彩の


――――弟だよ。」