そこで、周りから視線を痛いくらいに注がれていることに気付いた私は、一気に羞恥が出てきた。

感情を落ち着かせて、さっきよりも声のトーンを落とす。


「と、とにかく、何で此処に来てるの。私、断ったよね?」


そう言うと、希彩は「ああ、そそ、そうでした。」とか言いながら、鞄から何かを取り出した。


「あ、雨が降りだしたものですから、とと、凱那さんに傘を届けにきたんです。と、凱那さん、朝は傘をお持ちでなかったでしょう?」


渡されたのは、黒色の折り畳み傘。


でも、その傘を渡した希彩本人はずぶ濡れ。




「・・・・・・・・・・・・・馬鹿じゃないの?」


「え、えぇ!?すす、すみません!」


何故謝る。

思わず言ってしまった言葉に、希彩は全く怒りもせずとにかく半泣きで謝り出した。

ずぶ濡れで、半泣きで、謝罪。

その姿が、まるで成人男性の、しかも病院の院長なんて凄い人には見えなくて

つい


「・・・・ふ、ははっ。あははっ。」


吹き出してしまった。


「へ・・・・え、え?と、とと凱那、さん・・・?」


希彩は目を見開いて、ぽかんとしている。


「あはは・・・あ―・・・・可笑しい。ふふっ。」


二人ともずぶ濡れで、傘も差さず、一人は頭を下げててもう一人は笑ってる。


私達、相当おかしい奴等かも。


でも



「・・はは・・・希彩。」


「は、はい・・・・・?」



「・・・・・・・ばーか。」


それは、こいつに毒されたからかな。



「・・・・っ!!とき・・・・!」


何故か頬を赤く染めた希彩に背を向けて、黒色の折り畳み傘を開く。


「傘、ありがと。」

「あ、ちょ、と、凱那さん・・・・!!」


ああもう、本当に変な奴。
でも、嫌いじゃないかも。