十五の石の物語

「そんなことはありませんよ。
ミカエルさん、あなたの腕なら今でも十分通用します。
諦めるのはまだ早い。
これから、店を開かれてはいかがですか?」

「馬鹿な。
こんな老いぼれ一人じゃ店なんてやっていける道理がない。
年寄りをからかっちゃいけねぇな。」

「私は本気です。
ミカエルさん一人で無理なら、誰か人を雇えば良い。
人が雇えないなら、一日に数時間だけ開店するというのも良いのではないですか?
察するに、あなたはお金がほしいわけではないのでしょう?
料理を作って喜んで食べてもらいたいのでしょう?
違いますか?
…それなら、あなたの出来る範囲での店を作れば良いではないですか。
あなたの店なのですから…!」

ミカエルはまるで息をしていないかのように固まって私の話に聞き入っていた。
やがて、ミカエルの小さな瞳からはぽたりぽたりと小さな涙がこぼれ落ちる。



「ありがとよ…
こんな老いぼれの話をこんなに真剣に聞いてくれて……
本当にあんたのいう通りだ。
わしは、わしの料理を喜んで食べてくれる人がいりゃあ、それで良いんだ。
……よしっっ!やってみるか!
こんな老いぼれの店に来る物好きがいるかどうかはわからねぇがな。
来なけりゃ来ないで良いんだ!」

「この腕があるんです。
絶対に繁盛しますよ。
そうだ!
ここを少し改装してレストランにしてしまうのはいかがですか?」

「何~?ここを~?」

「そうです。そうすれば、通勤に時間はかかりません。」

「通勤時間だぁ…?
……あんた…本当におかしな事を言う人だな…」

ミカエルはそう言いながら微笑み、まるで少年のように瞳を輝かせながら店のことや料理の話を続けた。
堰を切ったようにミカエルの口からは次々と言葉が飛び出し、話は尽きない。
私もいつしかミカエルの美味しい料理とミカエルの新しい店の構想にすっかり夢中になっていた。