十五の石の物語

「わかるのか?
実はわしは子供の頃から料理が好きで、働ける年になったらすぐにレストランに入れてもらった。
見習いから始めて、毎日毎日真面目に勤めあげ、20年近くもかかってようやく自分の店を持てるとこまで行ったんだが…運悪くその金を全部騙し取られてしまったんだ。
今になって考えれば自分の店を持ちたくてわしは焦り過ぎていたのかもしれん。
だからこそ、あんな甘い話に騙されてしまったのかもしれないな…
しかし、コツコツと長い間かけて貯めた店の開店資金をだましとられてしまって、わしはもう料理を作る気力をすっかりなくしてしまったんだ。
あの時は生きる気力さえ失ってしまっていたよ……」

「……それはお気の毒な…」

「しばらくは何もする気がなくなって何年も馬鹿みたいに自棄になって飲んだり暴れたりしてたんだが、そのうちに身体を壊し本当に死にかけてしまってな。
そんなわしを拾ってくれたのが、行商の元締めだったんだ。」

「良い方に出会われたのですね…」

「わしにとっちゃあ、神様のようなお方だな。
若いもんならともかく、もう四十を越していたわしに行商のことを親切に一から教えてくれた。
いろんな所に連れていってくれては、わしのことを紹介してくれた。
親方のおかげでわしは立ち直ることが出来たんだ。
親方と出会わなんだら、わしはもうこの世にはおらんかっただろうな。」

ミカエルの瞳にはうっすらと涙がにじんでいた。



「わしももう老いた。
遠い街まで重い荷物を運んで歩くことは適わない。
二年前に腰を痛めたこともあって、行商からもうは引退したんだ。
出来ることなら、小さなレストランでもやりたいんだが、それをするにはもう遅い…
人生とは思うようにはいかんもんだな。
わしが下手な生き方をしただけなのかもしれんがな…」

ミカエルはそう言って、口許を歪ませた。