理由はわからないが、私はまだこの旅をやめる気持ちにはなれなかった。
森の民のことも意外な程素直に信じていた。
「信じる」というよりは、「疑い」が生じなかったということだ。
とにかく、今はヴェールを森の民に会わせることが最も大切な自分の指命であり、それによって何かしら自分の状況が変わる……全く何の根拠もないのに、私はそんなことを確信していた。



やがて三日間が過ぎ、私達はようやくレオから聞いた町にたどり着いた。
町に近付くにつれ、人々の喧騒が大きく耳に響き渡る。
そのことでヴェールは落ち着きを無くし、不安そうにあたりをきょろきょろと見回す。
彼はついこの間まで、暗い森で暮らしていたのだ。
彼が知っている人間は、両親と、時折、彼に森の道案内を頼むごくわずかな人々だけ。
まぶしい太陽を見たのも初めてなら、これほど大勢の人々が暮らす町を見たのも初めての事なのだ。
そんな彼が驚くのも無理はない。
ヴェールの心情を考えて、私はなるべく町の中心からはずれた裏ぶれた通りに宿を取ることにした。




「ここは人も店も多いから、何か重要な情報が聞けるかもしれないな。」

「そうだね。本当にここは活気のある町だね。」

「こんなに騒がしい音を聞いたのも、こんなに大勢の人を見たのも初めてです。
なんだか少し怖いような気がします。」

「大丈夫だよ。あたし達に任せといてよ。」



ヴェールにはまだ不安な所が多い。
そのため、彼は宿で待たせ、私とサリーが町で情報を集めることに決めた。
その晩、旅の疲れを取るべく、私達は逸る気持ちを押さえ、早めに床に就いた。