「ねぇ…少しでいいから…休んで…いこうよ…」

声をかけられ振り向くと、サリーはかなり疲れた様子で、顔を真っ赤にし、汗びっしょりになっている。
それを見て、私はついヴェールのことばかり考えて、サリーのことを少しも気に留めていなかったことを申し訳なく思った。
ヴェールも同じ思いだったらしく、すぐにサリーに水筒の水を差し出した。



「あ…ありがとう…」

ごくごくと喉を慣らしながら、サリーは渇いた喉に水を流し込む。
飲んだ水が汗に変わってサリーの身体から吹き出した。



「…ふぅ~…生き返った…」

一人だけ真っ赤な顔をして滝のような汗を流すサリーを見ていると、可哀相に思っていたはずなのに、私は無性におかしく、こみあげる笑いを止められなくなってしまった。



「何だよ、レヴ!何、笑ってるのさ!」

「いや…すまない。
ただ、君の顔がとんでもなく赤いので……」



奇妙なおかしさが感染したのか、ヴェールまでが同じように笑い始めた。



「もうっ!ヴェールまで、何がおかしいのさ~!!」

サリーが怒れば怒る程、私達の笑いは止まらなくなり、やがて、わけのわからない笑いの連鎖は今度はサリーにまで感染した。

皆で腹を抱えて馬鹿笑いをしているうちに、私は不意に気付いた。



(ヴェールがこんなに笑ったのは初めてだ……)



彼もまだ両親と暮らしていた頃にはきっとこんな風に笑っていたのだろう…
しかし、それから長い間、彼はこんな風に笑うことを忘れていたのだろうと、私はどこか切ない想いを感じた。