出発は次の日の朝と決まった。
ヴェールにはこれといって荷物らしい荷物もなく、旅支度にそう時間はかからなかった
彼の一番重い荷物といえば、それは心の中にあるものだろう…私は心の中でふとそんな事を考えていた。

(…しかし、本当に大丈夫だろうか…?
この森を出ることで彼が傷付くような事態にはならないだろうか…?
私に彼を守り抜くことが出来るだろうか……)

私はそう考える反面、この機会を逃したら、彼はきっと一生をこの暗い森の中で過ごすことになるであろうことも感じていた。
植物の交じったおかしな生物と自らを卑下し、恨みながら彼はここで一生を終えることだろう…と。
ヴェールは心根の優しい清らかな男だ。
頭も悪くはない。
これから外の世界でたくさんの教養を身に付ければ、誰に蔑まれることのない人物になれるはずだ。
そうなれば、自分にも自信が付く。
髪の色や肌の色の違い等、何の意味も持たないということに気付くだろう。
そうなるためにも、彼には森の外に出て欲しいものだ。
だが、世間はそのように考えてくれるのか?
私の気がかりはただそのことだけだった。



私達はいつもより少し早めに床に就いた。
体内時計とはたいしたもので、こんな闇に閉ざされた森の中でも、夜になれば眠くなり、朝になればちゃんと目覚めさせてくれる。

目覚めると、いつものように顔を洗い食卓に就く。
私の予想通り、その朝のヴェールは浮かない顔をしていた。
彼にとってこの森を出るということは、とても大変なことなのだ。
おそらくは、普通の人間が未知の宇宙に飛び立つ程の勇気と決断力を必要とすることなのだ。

軽い食事を済ませ、ついに出発の時間となった。
ヴェールは顔にはさらに色濃い不安が現れていた。