十五の石の物語

私は頭を振り、悪い想いを振り離そうとした。
そんなことくらいで、振り払えるものではないことはわかっていたのに…



(……もう日が暮れる…早いものだな…)



仕立てを頼んだことで、私はなんとなく満足し、そのまま宿に引き返した。
すると、入口で呼びとめられジネットからのメッセージを受け取った。



「手掛りになりそうなものがみつかったので、数日でかけてまいります。ジネット」

それはいかにも慌てて書いたような文字だった。

私は部屋に戻ると、ヴェールにジネットのメッセージを手渡した。



「良かった…
例の方の手掛りが何かみつかったのですね。」

「そのようだな。
そういうわけで、夕食は私達二人っきりのようだな。
私は先に入浴を済ませてくる。」

ヴェールの顔は、どことなく寂しそうに見えた。
元々脈はないと諦めてはいても、やはり寂しいものなのかもしれない。



(やはり、今でもヴェールはジネットのことを…?)



しばらくして、私達は階下の食堂へ向かった。



「こうやって君と二人っきりで食事をするのは久しぶりだな。」

「もしかしたら初めてではないですか?」

「そうではない。
暗き森で君に助けてもらってから、サリーが回復するまでの間、君と二人っきりだったではないか。」

ヴェールは、ゆっくりと頷く。



「そうでしたね…すっかり忘れていました。
なんだか、あの時のことが遥か昔のことのように思えます。」

「まだそんなに経っていないのにな。
ただ、この短い間にいろいろなことがめまぐるしく起こったせいだろうな。」

「その通りですね。
あの頃の私は、一生あの森を出ることなどないと思ってましたから…」

ヴェールは、昔を懐かしむかのように、ぼんやりと遠くをみつめた。



「あの頃の君は、今のように食べ物さえ食べなかった…
おかしな男だと思ったものだ。」

「そうでしたね!
こんな風にいろんなものを食べられるようになるなんて、考えてもみませんでしたよ。
これもすべてはあなた方のおかげ……感謝しています。」

「何を言う。
私達こそ、君に発見され助けてもらわなければ、もうこの世にいなかったかもしれぬのだ。
こちらこそ、感謝している。」

「そんなこと……
でも、本当に不思議な縁ではありますよね。
もし、あなた方が暗き森に来られなければ、私はきっと今もあのままだった…」

ヴェールはそう言って、切ない笑みを浮かべた。