「サリーさん、その黒蝶貝ですが、どこかでブローチにでも細工してもらったら素敵かもしれませんね。」

「ブローチかぁ…
あたし、今までブローチなんて付けたことないよ。
そんなしゃれたもんが似合う服装してなかったからね。」

「たまには女性らしい服装をしてみるのも良いかもしれないぞ。
町に着いたら服でも仕立ててもらうか?」

「馬鹿言ってんじゃないよ。
これから採掘場にいこうってのに、そんな格好してらんないよ。」

「それもそうだな。では、この旅が終わったら私が君に似合う服を選んでやろう。」



(…この旅が終わったら…?)

レヴは自分の言葉に奇妙な違和感を感じた。







その晩、四人は町外れの小さな宿に泊まった。
ヴェールの話によると、目的の町には明日には着くだろうとのことだった。



(…やはり杞憂だったか…)

ここまでほぼ順調に来ている。
心配された不吉な出来事等なにもない…
この先、森の民の居所を探し出し、そのあとであの老人を捜し出して代金を払えば良いだけの話だった。

(いや、なんならもうそんなことにこだわることもない。
気分の良いものではないが、見つからなければ払わなければ良いだけの話なのだ。
いや、もっと言えば…
この指輪を捨ててしまえば良いだけの話ではないか……)

ずっとつけ続けてきたこの指輪をはずせば良いだけの話なのだと、レヴは気付いた。

名残惜しい気はするものの、この先、何かあっては他の者達にも迷惑をかけかねないと考え、レヴはアマゾナイトの指輪に手をかけた。



(……!!)



指輪が抜けない!

レヴが太ったわけでもなく、見ただけでもそんなに指に食いこんでいない事は一目でわかる。

なのに、まるで指輪と指が一つのものとなっているかのように指輪はぴくりとも動かない。

レヴの鼓動はにわかに速くなる。



(……まさか…シャルロの言ったことは本当だったというのか…)



***

……ついに、魔石の運命の歯車が、音を立てて動き始めた……



黒蝶貝…fin