十五の石の物語

「…ネリーさん、あなたはここにずっとお一人で…?」

ネリーがようやく落ち着きを取り戻したのを見計らい、私は質問を口にした。


「ええ…一人になってからいつの間にか長い年月が過ぎました…」

「と、いうと、最初はどなたかとご一緒に住まわれていたのですね。」

私は質問を重ねる。



「その通りです。
親切な人間のご夫婦と長い間暮らしていたのですが、彼等が亡くなってしまってからはずっと一人っきりだったのです。
木や動物以外と話すのはずいぶんと久しぶりのことです。
ですから、先程もついドアを開けてしまったのです。」

「人間のご夫婦と…?
では、あなたは初めから森の民とは一緒に行動されてなかったのですか?」

「……それが…わからないのです…」

ネリーの表情がにわかに曇り、そっと俯いた。



「わからない…とは?」

「ずいぶんとおかしな事を言う女だとお思いでしょうね…
実は私は何かの事故にあったようなのです。
ひどい怪我をした私を、あるご夫婦が助けて下さったのです。
ご夫婦は誠心誠意私を看病して下さって、おかげで私は元気になることが出来ました。
しかし、事故の時に頭でも打ったのでしょうか?
過去のことを何一つ覚えてはいなかったのです。
『ネリー』という名前もお父様…助けて下さったご主人のことですが、その方が付けて下さった名前なのです。」

「……そんなことがおありだったのですか…それはお気の毒に…
それ以降もまったく記憶は戻らないのですか?」

「ええ…何一つ思い出せないままなのです。
ご夫婦は、他の人間にみつかると良くないことが起きるかもしれないと考え、私を連れてこの地に移り住みました。
ここへ来ると、私はとても落ち着いた気分になり、多分、私はこのような場所に住んでいたのではないかと思いましたが、それ以上のことは頭に白いもやがかかったようで、まるで思い出せないのです…」

ネリーは、苦しげな表情でそう話した。