十五の石の物語

やはり、部屋からは何の返答もなかった。



「あなたがどうしてもここを開けてくれないのなら……良いわ。
斧でこの扉を叩き壊しますからね!」

そういうと、マリアは本当に斧を手に持ち扉の前に立った。



「ジネット!今から、ドアを壊しますから離れていなさい!
わかりましたね!」

マリアが斧をふりおろそうとして力を込めた瞬間、「待ってください!」という声がして、ドアノブがカチャリと回った。



「ジネット…
……まぁまぁ、あなた、手当てもしないで…」

マリアはジネットをベッドに座らせ、傷口の手当てをした。



「はい。これで大丈夫!
でも、けっこう深い傷だから、しばらくは無理しちゃ駄目よ!」

「マリアさん、私……」

「……わかってるわ…
あなた、いろいろ辛かったのよね…
それでも、一人で頑張ってたのよね…
でも、私の前では我慢なんてしなくて良いのよ…」

「……マリアさん……」

優しく抱き締めるマリアの胸でジネットは泣いた…

ずっと長い間、胸の奥にしまいこんでいた思いが、マリアの一言ですべて吹き出されてしまったのだ。



泣いちゃいけない!
くじけちゃいけない!
いつもいつも、まるで呪文のように自分に言い聞かせ、押さえ込み、封じ込んでいた思いが熱い涙となって堰を切ったようにジネットの瞳から溢れ出す。

そんなジネットをマリアはずっと抱き締めながら優しく背中をさすり続けた。
マリアの手の温もりが……そして、マリアの流す熱い涙が、ジネットの固く閉ざされた心を溶かしていく…

今までの出来事が次から次へとジネットの脳裏に思い出された。
その度に、その時に感じていた辛い想いが涙に変わっていく…



泣いて泣いて、息苦しくなる程思いっきり泣いて、ジネットの心に溜め込まれた数えきれない程の辛さや悲しみが流し出された…