十五の石の物語

ジネットの指差す先には、小さな洞窟があった。

少し中に入っただけで、ひんやりとした冷たい空気を感じる。
なれた手付きで所々に置かれた松明にジネットが火を灯していく。



「ここですわ。」

洞窟の奥には水が湧き出る小さな泉のようなものがあった。
ジネットは持ってきた瓶に水を汲む。



(これが「幸せの水」
しかし、なぜそう呼ばれているのだろう…?
それに、なぜ、マリアさんは我々なら大丈夫等と言ったのだろうか…?)

その時、私は、洞窟の壁の一部が不思議な色をしていることに気が付いた。
その部分だけが淡く美しい紫色をしているのだ。



「…ジネットさん、あれは…?」

「お気付きになりましたか?
あれは、翡翠なのです。」

「翡翠…?
翡翠にあんな美しい色があったとは知らなかった…
それに、翡翠は遠い異国でしか採れないものと思ってました。」

「その通りですわ。翡翠はこのあたりでは採れませんのよ。」

「では、なぜここに…?」

ジネットは意味深な笑みを浮かべた。



「あの翡翠は置いてあるだけ……」

「置いてある?」

「えぇ……詳しいことはマリアさんにお尋ねになられるとよろしいかと思います。」

「……わかりました。
では、ジネットさん、『幸せの水』というのは…?」

「レヴさん、宝石には花言葉のように『宝石言葉』というものがあるのをご存じかしら?」

「いえ、知りませんでした。」

「宝石はその石の力を象徴するような『宝石言葉』を持っています。
翡翠の『宝石言葉』は『幸福』…」

「……なるほど…だから、幸せの水と呼ばれているのですね。」

ジネットは嬉しそうに微笑み、うなずいた。