(……まただ…)



夜明け間近の冷たい空気の中で頭がはっきりしてくるにつれ、私は自分の愚かさをはっきりと感じていた。

なんでも思い立つとじっとしていられない。
たいした準備もせず、どこに行って何をするかも決まらぬうちに行動に移ってしまう。
私の悪い癖だ。

家族にいろいろ訊ねられると煩わしいと思い、暗いうちに家を出たのは良いが、私には行くあて等全くなかった。

もう一度市場へ行こうかとも考えたがもう市は終わってしまったのだ。
市場の元締めも老人の事など知らないと言ったことだし、市場へ行っても手がかりになるものはみつけられないことは明らかだった。



(…ならば、どこへ…?)

進むべき場所が決まらぬまま、私はすでに歩き出していた。
屋敷から一刻も早く離れたかったのだと思う。



遠くで鳴く一番鶏のけたたましい声が私の耳を騒がせ、真っ暗だった空が少しづつ朱に染まっていく…

その光景をみつめながら、私はそこで少し方角を変え、朝陽に向かって歩くことに決めた。
暗い所にいたから、光が恋しくなった……理由と言えそうなことは、ただ、それだけのことなのだが。

陽の光に照らし出されたあたりの風景を見渡し、まだやっと隣の街に着いただけだということに気付き、私は小さく肩をすくめた。
馬車で通りががったことがある道だ。
馬車ならあっという間なのに、歩くとこれほど違うものなのか。
そう思うと、急に気持ちが滅入ってしまった。