「旦那様〜!奥様〜!
大変です!」

翌朝、メイドがけたたましい声をはりあげて食堂に駆け込んだ。



「朝っぱらから、何事ですか?」

「奥様、これを…!」

メイドが手渡した白い便箋には、見慣れたレヴの文字があった。



「指輪の代金を支払ってきます。」

便箋にはただそれだけ書いてあった。



「カトリーヌ、これが一体どうしたというのです?
レヴは街の宝石店にでもでかけたのでしょう。」

「奥様!そんなことをわざわざレヴ様がお手紙にしたためられるわけがございません。
第一、そんなことは私共に言い付けられれば良いことではありませんか!
それに、お洋服や下着もなくなっているのですよ!」

「ほほぅ、そんなものまで持って出掛けたとは、レヴはかなり遠くの宝石店まででかけたとみえるな。」

「旦那さま!また、そんな呑気なことを…」

「……仕方ありませんね。
あの子は小さい頃から言いだしたら聞かない子でしたから…
どうしても自分で行かなくてはならない理由でもあるのでしょう。」

「奥様までそんなことを…!」

「代金を支払ったら、すぐに帰って来るだろう。
カトリーヌ……そんなことよりもう一杯お茶をいれてくれないか?」

「……かしこまりました、旦那様…」

カトリーヌは渋々、お茶の支度に取り掛かる。
一人息子が家出をしたかもしれないというのに、なんとも落ち着いた夫婦だと呆れながら…



(……お金持ちって、本当によくわからないわ…)

カトリーヌが熱いお湯をコポコポとポットに注ぐと、あたりに紅茶の良い香りが広がる。



(……レヴ様…朝食はもう召し上がったかしら…?)


1、天河石…fin.