「…お気は確かですか?」
低く美しいテノールに、私の意識は呼び戻された。
「あ、は、はい…」
「あぁ、良かった」
その声の方向に顔を向けると。
「っ!」
…声同様美しい、男性が立っていた。
「…私、名を誓(ちかい)と申します。貴方の名は…?」
「わ、私は、楓…氷室楓(ひむろかえで)です」
すると男性は一瞬大きく目を見開いた後、ゆるりと再び口を開いた。
「…名字が、あるのですか…?」
「え?」
普通でしょ?と思った私は当然混乱した。
(…何言ってんの?この人…)
「えと、その…誓、さん…の名字は…」
「あぁ、清水(しみず)です」
(…何だ、この人)
私に名字がある事に驚いたかと思えば、自らの名字はサラリと名乗った。
(…ん、あれ?)
…そういえば、違和感を感じる。
この清水誓と名乗った男性は、着物(着流し)。
私の住む町の近く(少なくとも私が走って行ける距離)にはないはずの、豊かな田畑。
そして、清水誓が腰に差す、日本刀。
…先程見た、圏外という文字が再び頭を過った。
電波が届かない。
(システムエラー)
(エンドレス…。)