「はっ、は…!」

私は走っていた。

制服のまま、ただひたすらに。

汗も拭わぬまま、ただ必死に。

何故か?

…足を止めぬまま後ろを振り返ると、私を追ってくる見知らぬ男(所謂ストーカーである)。

(怖い…!誰か助けて…誰か!)

住宅街を駆け抜け、大きくはない雑木林に入る。

雑木林を抜けたところでついに私の体力の限界が訪れ、その場に倒れ込む。

「はっ、はぁ…ま、いた…?」


たった今、駆け抜けたばかりの雑木林を振り返り、先程の男が居ないかを確認する。

(よかった…居ない…)

ほっと安堵の息を吐き、私は初めて辺りを見渡した。

「え…あ、れ…?」

同時にそこは私の知る場所ではない事を知る。

見渡す限り田畑という、静かで豊かな田舎である。

「や、やだ…」

咄嗟にスクバを漁り、ケータイを手に取る。

「嘘…」

…圏外と主張するそれを、私は呆然と見詰めた。


はじまり、はじまり。

(これは時をも越えた)
(哀しくて温かいお話)