リコリス燃ゆる




真っ赤に染まる床一面、けれど気に留めることなく出口へ進んだ。


いちいち気にしてたらこの仕事はやってられない。



途中ぐしゃりという生々しい音が足下で鳴ったが、それすら俺の意識に10秒も留まれないのだ。

残酷。

構わない。

仕事だから、恨みたければ恨めばいい。


俺もまた死に急ぐ一人なのだろうが、これはきっと仕方がない類いに入るんだろうな。



「今夜は冷えますから。
今からでも馬車を呼びましょうか」


「いい、歩く。
だから明日は休ませてくれ」


「だから馬車をと申しています」


「じゃあ『嫌だ』。」



ああ、駄々っ子みたいだ。

レインはムッとした顔を見せるがそれ以上反論はしないらしい。



だって、月が綺麗な夜ほど石畳の町並みは美しく映える。

まるで幻想、神秘的な蒼白い光の中で時間を費やすのがまた楽しいもので。



「まぁお前が風邪を引くなら馬車をとるが」


「引きませんよ。」


「ならいいだろう」