リコリス燃ゆる




男はペロリと舌なめずりすると、獣めいた姿勢の低さで俺の胸を狙った。


軽く服が切れたが、上手く躱して男の短刀の片方を蹴り落とした。


まま、背中に垂直に刃を落とせばあえなく防がれてしまう。



「残酷だと思ったかい?

でも構わないんだ、僕は。
あんなこと言ったけれど本当は君たちに感謝してるよ」



男はさらに懐からまた短刀を取り出した。

多分まだまだ仕込んであるのだろう。



「復讐、と言わなかったか。

なぜ感謝なんて言うのかまったくわからないな」



「ああ、そうだろ。

…僕はね、死にたくないんだ、生きていたい人間なんだ。」


男の目が段々と狂ったように濁り始めてきた。

向かってくる様子もがむしゃらで本能的。


無能ではないよ、と、言わなかったか。



「僕は生きていたいんだけどね、いかんせん生きる理由が見つけられない人間でね。

悩んだ挙げ句思いついたのが、彼らと同じ『人殺し』。

いいよねぇ、楽で、明確で、しかも格好よくて筋の通った立派な存在理由!」



聞いて、ああと思った。

つまりは便乗だ。